もし、あなたがある日、自転車で日本一周をしてみたいと思ったとしたら、どのように進めていけば良いのでしょうか? この【自転車日本一周のためのガイド 】では、過去に自転車日本一周をおこなったサイト管理人が、自身の経験を活かして、計画の進め方や準備するものを解説していきます。
第12回目は、近年義務化されるようになってきている自転車保険について考えます。
<次の記事【自転車日本一周の実際 1】自転車のトンネル走行について
自転車保険は義務化の流れ
近年、各地方自治体の条例により、自転車保険への加入を義務化する動きが広がっています。2020年4月現在、自転車保険が義務化されているのが15都府県、8政令市です。
ひと昔前なら自転車保険に入れなんてあまり言われませんでした。なぜ義務化されることになってきたのか、これには、とある自転車事故裁判の判決が大きなきっかけとなっています。
2013年7月4日、神戸地方裁判所の判決で、加害者側に9,521万円の支払いが命じられました。加害者は男子小学生(11歳)で、夜間自転車で帰宅途中に歩行中の女性(62歳)と正面衝突。女性は頭蓋骨骨折等の傷害を負い、意識が戻らない状態となりました。
それまでにも高額な賠償金の例がありましたが、小学生が起こした事故に対してこの賠償金の高さは、当時ニュースなどでも取り上げられ話題となりました。小学生の子を持つ親は、かなりビビったのでは無いでしょうか。それまで自転車に乗る子供の安全性については、ヘルメット装着の義務などいわれていましたが、加害者になることについてはあまり触れられていませんでした。
兵庫県では、この判決だけがきっかけでは無いですが、県の委員会での検討・提言を踏まえ、2015年自転車保険の義務化を条例で制定しました。その後、多くの地方自治体がこの流れにのって、義務化や努力義務とする条例を制定することになっていきました。
兵庫県の条例では、「県外の人間が県内において自転車を利用するときも、条例の適用を受ける」とのことです。自転車日本一周をする際は、たとえ自身の住む自治体が義務化を制定していなくても、義務化されている自治体を通過する場合はその条例の適用を受けることになります。
ということで自転車日本一周をする際は、自転車保険への加入はほぼ義務に近いものということになります。ただし、義務といっても罰則を伴っていないので、保険に加入していないからといって何があるわけでもありません。この義務化の流れを受けて、本当に自転車保険に加入する意味はあるのか、そもそも自転車保険とは何かを考えます。
自転車保険とは
そもそも自転車保険とは何でしょう。
調べると自転車保険とは、自転車に乗っている時に発生した損害を補償する保険で、補償の内容は大きく分けて2つ。自分のケガの補償である傷害保険と、相手への賠償である個人賠償責任保険で構成されています。これらの両方、もしくは片方(おおくは個人賠償責任保険)にプラスして、各社独自のサービスを取り入れているようです。
近年の自転車保険義務化の流れを受けて、各損害保険会社が自転車保険の名をつけた商品を増やしてきました。検索するとたくさんの保険や、それらを比較したサイトが出てきます。それらを見ていると、自転車保険にも様々なタイプのものがあるのがわかります。自転車保険にはどういったものがあるのでしょうか。
自転車保険を構成する要素
自転車保険を構成する要素として、相手にケガをさせたときの「個人賠償責任保険」、自分がケガをしたときの「傷害保険」、被害者側との「示談交渉サービス」、自転車が壊れた時などの「ロードサービス」があります。これらすべてを兼ね備えた自転車保険もあれば、そうでないものもあります。ひとくちに自転車保険といっても様々なものがあるということです。それら要素の内容を見ていきます。
個人賠償責任保険
自転車に乗っていて歩行者にぶつかりケガをさせた場合などに必要な保険が、この個人賠償責任保険です。現在、自転車保険として重要視されているのはこの保険で、被害者救済の意味が大きく、自動車やオートバイの自賠責保険と同じ考え方です。自転車保険の義務としては、これに加入していないといけません。補償金額は過去の裁判の賠償金例から1億円のものが多く、最大3億円のものまであります。ケガに対してだけで無く、対物の補償もあります。
後述しますが、自動車保険や火災保険、傷害保険の特約として、また、クレジットカードにも個人賠償責任保険の特約が付帯されていることがあります。
傷害保険
自身がケガを負った時に補償してくれるものです。「死亡保険金・後遺障害保険金」「入院保険金」「通院保険金」などが支払われます(内容・金額は保険によります)。
自転車事故のみ対応するものと、それ以外の事故に対応するものがあります。自転車事故のみしか対応していないと、自転車を降りて押している時は対象外になることも考えられますので、注意が必要です。
傷害保険は、すでに加入済みの生命保険などにセットになっている場合も考えられます。また、自身のケガはすでに加入済みの医療保険で対応できるかもしれません。
自転車保険の義務化といっても、傷害保険の部分は必須ではありません。
示談交渉サービス
自動車の任意保険なら事故が起こればまず保険会社に連絡して対応を任せるのが一般的ですが、自転車保険はそうでないものが少数ですがあります。この示談交渉サービスが無いと、事故を起こした場合の被害者とのやりとりはすべて自分でおこなわなければならないということになります。
保険はお金がどうこうだけでなくて、被害者と加害者のやりとり(交渉や書類の手配など)が重要になってくるので、これは絶対に必要です。
ほとんどの自転車保険には示談交渉サービスはありますが、加入する前に確認はしておいた方が良いでしょう。また、自動車保険や火災保険、クレジットカードの特約の場合も、保険会社・保険の種類によって違いますので確認が必要です。
ロードサービス
自動車やオートバイの保険ならロードサービスは一般的ですが、自転車保険でロードサービスをおこなっているところは少ないです。自転車で長距離を走るという前提があまりないので当然ともいえますが、自転車旅やブルベをする場合は、あればあったで良いのではと考えます。
調べたところ、2020年9月現在、ロードサービスをおこなっている保険会社は実質2社です。ロードサービスについては、後述します。
保険内容は様々
以上、自転車保険を構成する要素を見てきました。自転車保険はこれら要素の組み合わせで作られています。何を重視するか、他者に無いサービスをつけるか、金額の設定など保険会社・プランによって内容は様々です。
そして自転車保険に加入しなくても、すでに加入済みの保険で「個人賠償責任保険」や「傷害保険」を兼ね備えている場合があります。
自転車保険で無くても補償はある
自転車保険の義務化といっても、実際に必要なのは「個人賠償責任保険」です。特に自転車保険に加入しなくても、加入している保険の特約などでカバーできる場合があります。
個人賠償責任特約
自動車保険や火災保険、傷害保険には、「個人賠償責任補償」「生活賠償責任補償」という補償がセットされていたり、特約として付加できるものがあります。これは自転車事故に限らず、日常生活全般で賠償責任を負ったときに保険がおりるものです。
また、自転車保険(個人賠償責任補償+傷害保険)を特約として付加できるものもありますし、同居する両親の加入している自動車保険などで、家族まで含まれる特約などもあります。
自転車保険についている個人賠償責任保険の金額に比べると補償金額が低いことがありますが、それらに加入している場合は、義務としての自転車保険はクリアしていることになります。まずは契約している保険の内容を確認した方が良いでしょう。示談交渉サービスの有無も要確認です。
クレジットカードの特約
クレジットカードにも、オプションとして名前はそれぞれですが、個人賠償責任保険を付加できることがあります。
自動車保険などに加入していない場合でも、クレジットカードに特約があるかもしれませんので、こちらも確認した方が良いでしょう。こちらも示談交渉サービスの有無も要確認です。
TSマーク
TSマークは、自転車安全整備士が点検確認した普通自転車に貼付されるもので、傷害保険と賠償責任保険、被害者見舞金が付いています。自転車の整備を受けた時に加入できるもので青色と赤色のマークがあり、青色は最大1000万円、赤色は最大1億円まで、損害賠償責任を負ったときに保険金がおります。なお、被害者見舞金があるのは青色のみです。
保険自体に料金設定は無く(おおむね1,000~2,000円のようです。お店による)、自転車の点検整備を受ける料金に含まれるかたちとなります。整備を受けた日から1年間が有効期間となり、補償を続けるには1年ごとに所定の整備店で有料の点検をしてもらいます。
自転車の点検のついでに気軽に加入できそうです。しかし、賠償責任補償の給付条件が、「死亡・重度後遺障害(1~7級)」などで後遺障害が残らないケガには対象外、対物は補償外、Q&Aにある請求手続きの流れを見る限り示談交渉サービスがなさそうと、補償はそれほど手厚くなさそうです。
自他共に骨折程度の事故を起こした場合では補償外のようなので、あまり意味は無いかもしれません。
ロードサービスは必要か?
自転車の故障に備えてロードサービスをおこなっている自転車保険があります。自宅から1km以上先で自転車に故障が発生した場合、50kmまでの自宅もしくは自転車店などに、無料で自転車を運んでくれるサービスです(距離はau損保の場合)。
調べたところ、「au損保のBycle」と「ZuttoRideのCycleCall」の実質2社がこのサービスをおこなっています。ロードサービス対応を謳った別の保険でも中身を見ると保険自体をau損保が引き受けていたり、受付窓口が自転車販売店になっていて実質au損保が対応していたりする場合もあります。
ロードサービスの距離に若干の違いはありますが、事故や故障があった場合、自転車を運んでくれるというのは同じです。町中だけで自転車を利用している場合は、特に必要ないのではとも思われるでしょうが、長距離走行する自転車旅の場合は、これがあれば安心では無いかと考えます。
北海道のずっと道しか無いオロロンラインやエサヌカ線などで、トラブルで動けなくなった場合などを考えるとおそろしいものです。
私は日本一周を行うにあたり、「au損保のBycle」広告を見て、すぐに加入を決めました。2016年当時はこれしかなかったように思います。
結局、ロードサービスを使うことは無かったのですが、「万が一、人里離れた場所でトラブルにあってもロードサービスがある」と少しは安心感を得ていた気がします。今のところ保険に加入していなくて、自転車日本一周をきっかけに保険加入するなら、ロードサービス付き自転車保険への加入は検討する価値があると思います。
人は乗せてもらえるのか?
この記事を書くにあたり少し気になっていたことを調べました。旅中トラブルで自転車が動かなくなった場合、自転車は近くの自転車店へ届けてもらえるとして、人はどうなの? ということです。ホームページを見ても、そのあたりは触れられていません。人里離れた場所でトラブルに遭った場合、自転車は運んでもらえても、自分は歩いて行かなければならないのでしょうか。
保険会社に電話で確認したところ、以下のような回答でした。
au損保……基本的に人に関しては、対応していないとのこと。要は自力で行けということです。しかし、人里離れた場所でもそうなのかと問うと、最終的には現場対応とのことです。回収対応にあたる会社次第といったところでしょうか。ロードサービスを依頼する時に、その旨を伝えていただければとのことでした。
au損保のロードサービスを利用したという体験談などでは、車に同乗させてもらえたと書かれているものがあります。
ZuttoRide……人里離れた場所などでは、近くの公共交通機関までは乗せてくれるとのことです。ただし、こちらも状況次第とのことで、乗せてもらえない場合もあり得るし、届け先まで乗せてもらえる場合もあるようです。なお、規約には「対象車両を搬送する車両への会員の同乗は、できない場合がございます」と明記されています。
両会社とも現場での状況次第といったところです。
調べてみたところ「道路運送法」という法律が関係しているようで、事業として人を運搬する場合には特別な許可が必要となり、通常のロードサービスの範疇を超えてしまうようです。ただ、人里離れた場所やその場に取り残されると危険と判断されるような場合は、これに限らないようで対応してくれるみたいです。さすがに近くに何も無い場合は、検討してくれるようです。
「自転車ロードサービス」の利用実態
au損保の「自転車ロードサービス」の利用実態が報告されています。
分析の結果、「土日」の「昼間」に「ロードバイク」に乗って「自分ひとり」で「余暇でのサイクリング」をしている方からの要請が多いとのこと。トラブル時98.1%が自転車ロードサービスを「すぐに思い出した」、その理由としては「自転車ロードサービスに魅力を感じ、保険に加入したから」が85.4%(複数回答可)とのこと。トラブルに備えてロードサービス付き自転車保険に入っていおけば、いざというときに頼れる存在であるようです。
車両保険と盗難保険
自転車保険を構成する要素として、「個人賠償責任保険」、「傷害保険」、「示談交渉サービス」、「ロードサービス」を書きました。それならこれら以外の要素はどうなのか。
自動車保険にあるような壊れた車を修理するための「車両保険」や、万が一盗難に遭った場合の「盗難保険」を含む自転車保険は無いのか? 調べてみました。結果、自転車保険の中にこれらが含まれるものは無くて、別途、専用の保険がありました。ただし、加入条件や支払い条件が様々で検討するのは大変そうです。
なお、「すぽくるプラス」という、SBI日少保険の「車両・盗難保険すぽくる」とau損保の「Bycle」のコラボ商品がありましたが、1つの保険ではなくて別々の保険にまとめて加入するイメージです。
個人的にはそれほど高い自転車で無い場合は、車両保険も盗難保険もいらないと考えています。高額なロードバイクで日本一周を考えられているならともかく、10万円以下の自転車の場合は加入できない場合もありますし、盗難に関してはロックなどしっかりしておけばそれなりに対応できると思っています。
興味のある方は、ご自身で調べてみてください。
車両保険と盗難保険がセットになっているものは少なくて、自転車盗難保険はもっとたくさんあるようです。
自転車日本一周における事故は?
過去の自転車日本一周ブログなどを見ていると、数件ですが事故にあったことが報告されています。
峠の下りの単独事故で骨折とか、走行中に後ろから車に引っかけられて転倒とか、日本一周を中断した件がありました。また、入院するにいたらないまでも、車にはねられた件も。
そして、自転車日本一周中の悲しい事故というと、2007年6月、自宅から40km手前、ゴール寸前のトンネルで大型ダンプトラックにはねられ死亡した、80歳の男性の事故がよく知られています。
今のところ自転車日本一周中に、加害者になった事故というのは聞いたことはありません(聞いたことが無いだけで実際の有無はわかりません)。ただ、自転車関連事故は2019年で80,473件と、かなりの数が起きているので、自転車日本一周中に絶対に事故にあわないという保証はどこにもありません。
まとめ
近年、各地方自治体の条例により、自転車保険への加入を義務化する動きが広がっており、自転車日本一周をする際は、自転車保険への加入はほぼ義務に近いものということになります。
自転車保険を構成する要素は、「個人賠償責任保険」、「傷害保険」、「示談交渉サービス」、「ロードサービス」です。
しかし、義務として求められているのは、「個人賠償責任保険」の部分のみ。義務をクリアするには、この「個人賠償責任保険」に加入しておけば大丈夫です。この「個人賠償責任保険」は自転車保険だけで無く、自動車保険や火災保険、傷害保険の特約として、また、クレジットカードにも個人賠償責任保険の特約として付帯されていることがあります。また、自身がケガをした時の保険である「傷害保険」は、生命保険や医療保険でまかなえる場合があります。
すでに加入済みの保険で対応できる場合は、改めて自転車保険に加入する必要は無いので、まずは加入済みの保険を確認すること。
自転車保険に付加されるロードサービスはあると安心。「車両保険」と「盗難保険」は自転車保険に含まれることはないので、希望する場合は別途加入が必要です。
自転車日本一周中に事故にあった例が数件あるので、やはり保険に加入しておけば安心です。すでに加入済みの保険で対応することも出来ますし、自転車日本一周をする1年だけの加入も可能です。
私としては自転車日本一周をする間だけ、「個人賠償責任保険」、「傷害保険」、「示談交渉サービス」、「ロードサービス」を備えた保険に加入することをオススメします。ひとつの保険会社ですべてをまかなえる方が、楽だと考えるからです。
以上、自転車日本一周における自転車保険のススメでした。なお、準備編は今回で終了、次回からは実際編です。
<次の記事【自転車日本一周の実際 1】自転車のトンネル走行について
参考サイト
国土交通省関連
自転車活用推進本部
警察庁
自転車保険について
自転車保険比較サイト
ロードサービス付き自転車保険
この記事を書いた人の自転車旅遍歴
この記事を書いたサイト管理人の自転車旅遍歴です。
2009年、自転車で初めての100km越え。
2010年、自転車で四国一周10日間の旅。
2016年、自転車で日本一周。
2019年6月、自転車で北海道旅(途中で、打ち切り)
2019年10月、自転車四国遍路旅
自身での旅にくわえて、自転車日本一周ブログが大好き。たくさんのブログを読んで、自転車旅の知識を補強しています。過去の自転車日本一周ブログのリンク集も作ってますので、そちらも参考にしてください。
40歳くらいで自転車に目覚めて約11年。現在は腰痛で苦しんでいます。今後、自転車旅は難しいかなと思いつつ、自転車旅に思いをはせてこの記事を書いています。