【90年代単巻ラノベを読む】『鋼鉄の虹 装甲戦闘猟兵の哀歌(水無神知宏)』を読んで【読書メモ】

さて、本日の【90年代単巻ラノベを読む】は、1930年代のヨーロッパを舞台にした架空戦記、水無神知宏「装甲戦闘猟兵の哀歌」を読んだ感想です。

鋼鉄の虹 装甲戦闘猟兵の哀歌

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著者:水無神知宏
イラスト:伊藤明弘
文庫:富士見ファンタジア文庫
出版社:富士見書房
発売日:1994/09

1914年、欧州大戦勃発。中欧の小国、ケルンテンも、この狂気と無縁ではなく、オーストリア・ハンガリー帝国の侵入を受けてしまう。危機に瀕したケルンテンを救ったのは、ひとりの天才的な自動人形職人であった。彼が造り上げた全高5メートルの鋼鉄の騎士が、『戦車』の出現を凌駕する衝撃をもって、侵略軍を撃退したのだ。それから20年。鋼鉄の騎士は、装甲戦闘猟兵―イェーガーとよばれるようになり、軍の制式兵器として採用されていた。再びきな臭くなり始めた国際情勢に、人形遣い―イェーガー乗りたちは否応なく巻き込まれていくのであった…ネットゲーム「鋼鉄の虹」の舞台に展開される、血と硝煙のパンツァーメルヒェン。

読んだ感想

90年代単巻ラノベで久々の当たり。これは面白かった。ラノベでは珍しいロボットアクション物で、少年兵の主人公が戦いを経て成長する物語です。

物語は1937年のヨーロッパ、ドイツと国境を接する架空国家ケルンテン公国が舞台となります。そして、戦争兵器として登場するのが、全高5mの装甲戦闘猟兵(イェーガー)と呼ばれる人形兵器。ガンダムのモビルスーツより、ボトムズのATに近い設定です。

所属するイェーガー部隊では落ちこぼれの新兵ディー。国境近くで消息不明になった部隊を調査する、隠密作戦に登用されることになります。彼を登用した上官ヴァルターは、ディーの小さい頃からの知り合いで、普段から目をかけてくれている先輩。そして「シェラネバタの狼」と呼ばれるエースパイロットでもあります。ディーとヴァルターのやり取りが、初代マクロスの一条輝とロイフォッカーを思い起こさせ、物語の序盤の見どころになります。

才能あふれる女性パイロット メイベルと、口の悪いヴィンケルマン博士の2人の民間人が部隊に加わり、隠密作戦に向かった後は、ディーの新兵ゆえの苦労あり、裏切り者の存在を匂わす事件あり。

新兵なのに隠密作戦に登用される主人公が、秘めた能力を持っていて活躍するのかと思ったのですが、常識的な活躍で終わってしまったところは残念ではありますが、リアルであります。最終的に裏切り者と戦うことになるのですが、この戦闘シーンがなかなかのかっこよさ。

エピローグ部分が個人的なことのみで、国全体がどのようになったのか描かれていないところが、ちょっと物足りなくもありますが、全体的に楽しめました。

ただ、ちょっと色々と気取った部分が鼻につきます。序章の出だしの文章だったり、出てくる車がBMW328とあえて車種名を出していたり、ヴァルターが口笛で奏でるのはジャズだったり。このあたりはこだわる大人のチョイスといいましょうか、ちょっと鼻につきますね。

そしてなぜか身長はフィート、速度はマイルで書かれています。ヨーロッパということでしょうが、イェーガーは全高5mと書かれているし、戦闘中では数m飛び退るし、斧が食い込むのは50cm。作者の頭の中から出てくる距離感はメートル法なのに、気取ってフィートやマイルを使っている感じです。また、ルビにでてくるドイツ語?も。

さらに、あとがきでは「あとがき」が嫌いだと言い放ち、自身が参加するネットゲームの宣伝をする始末。書きたくないなら適当な謝辞で濁せば良いものを、あえて「みっともないもの(と感じる)」とまで言っています。読者は、こんな物語を書いた作者はどんな人なんだろう、作者はどんなことを思ってこの小説を書いたのだろうと、あとがきを読むもの。物語自体は面白いと感じたのですが、最後のこの作者の姿勢には?でした。

なお、あとがきによると、この小説と世界観を同じくする「ネットゲーム95 鋼鉄の虹 〜Die Eisenglorie〜」なるものがあるとのこと。wikipediaによると郵便を利用して楽しむプレイバイメールのようですが、現在では内容がどんなものだったかは不明です。また、「鋼鉄の虹 パンツァーメルヒェンRPG」というテーブルトークRPGもあるようで、こちらも世界観を同じとしているとのことです。

「鋼鉄の虹」の世界観を持つラノベとして、甲斐甲賀による「彗星城に亡霊は哭く」もあります。この世界観に興味を持ったので、これも読んでみたいと思っています。