【単巻名作ラノベを巡る旅8】『ほうかごのロケッティア School escape velocity(大樹連司)』を読んで【読書メモ】

さて、今回の名作単巻ラノベを巡る旅は、大樹連司の「ほうかごのロケッティア School escape velocity」です。私が独自調査した「みんなのオススメ単巻ライトノベル」でもベスト10に入る、青春部活小説の王道を行く作品です。

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ほうかごのロケッティア School escape velocity

著者:大樹連司
イラスト:しずまよしのり
文庫:ガガガ文庫
出版社:小学館
発売日:2009/12/18

何もかもが、順調なはずだったオレの学園生活。あの電波女が来るまでは―。「私の“友達”を宇宙に返して!」電波女に弱みを握られたオレに与えられたのは「携帯電話を人工衛星にする」というバカげたプロジェクト。高校生が自作ロケット?ほかに行き場のない連中の現実逃避だろ!?オレの心配をよそに、ひと癖もふた癖もある連中が集まり、ロケット制作が始まった。カウントダウンの先にあるのは、バカげたドリーマーの自爆行為か、教室という箱庭からの脱出か―。青春と妄想をのせたロケットが今、宇宙へ「リフトオフ」する。

読んだ感想

高校生5人が集まって、自分たちの手で作ったロケットを打ち上げるという青春部活小説です。面白いのが、主人公の過去のトラウマとスクールカーストを絡めているところ。

メインのストーリーは、ロケット作りに試行錯誤し、失敗を乗り越え、見事打ち上げるという王道的ストーリー。これらの面白さがよく語られるのですが、前半から中盤にかけての、スクールカーストを巡る、主人公の動きがあってこその、終盤の面白さであろうと思います。

元オタクで厨二病だった主人公 褐葉 貴人(かっぱ たかと)は、トラウマを抱えつつも高校デビュー。学園理事長の娘でクラスの進学率を高めようとする那須霞 翠(なすか みどり)の手足となり、スクールカーストの維持に努めています。貴人のトラウマにも関わった美少女、久遠 かぐやが転校してきたことにより、貴人の生活は大きく変わっていくことになります。かぐやは自身の携帯電話を宇宙に返したいといい、貴人を脅す形でロケット作成に取りかかることに。

前半から中盤にかけては、貴人がスクールカースト維持のために、オタクを酷いあつかいにします。これは主人公が元オタクで過去を否定するための行動でもあるのですが、このあたりは読んでいてつらく感じる人もいるかもしれません。また貴人は翠の手足となって動ているのですが、翠との関係性がちょっとわかりづらいかもしれません。

スクールカースト維持に力を使いつつも、ロケット作成に徐々にはまっていく貴人。ロケットに関する知識などは、理系とか工学系の人が読むとどうなのかわかりません。そのあたりに無知な私には、説得力があったし、ロケットを徐々に進化させていく過程に、リアルさと物作りの楽しさが読み取れました。貴人と同時に読者もロケットに関する知識がついていき、物語は加速していきます。

しかし、中盤で貴人はスクールカースト最下層に転落することになります。操っていたつもりが、ロケット作成にはまっているうちに、反逆にあう形です。それと同時に、ロケットの打ち上げ失敗。そこからがこの物語の真骨頂。やや定型的ながらも、熱い物語になっていきます。

ロケット完成間際の追い込みシーンは、やる気のない文化祭、スクールカースト最下層に落ちてからの音楽祭と、貴人の立ち位置と熱量の違いを対比的に描いていて、物語にうまく強弱をつけています。中盤から後半へかけてのロケット作成・打ち上げまで、一気に読ませてくれて、王道的ストーリーの醍醐味を味わえました。

ただ全体的にネットスラングやアニメ・マンガ・ラノベネタの多用には若干の疑問が残ります。作中で多用されているマンガやアニメのオマージュやパロディは、どれくらいの期間有効なのだろうかと。

ロケット打ち上げということで、「王立宇宙軍オネアミスの翼」とか「プラネテス」とかの名前が普通に出てきますが、これらの作品を知らない人にとっては、その意味が全くわからないということになります。わからなくても通用するのかどうか。あまりにも有名なセリフなどなら、なんとかパロディとして通用するでしょうが、わからなければパロディにさえなりません。オマージュやパロディの元ネタがわからなくなったときに、どのような評価を受けるのでしょうか。2009年の作品なので、すでに10年が経っています。今ならまだなんとか通用すると思います。しかし、さらに10年経つとどうか。この小説には賞味期限があるのかもしれないと思うのです。

そして賛否のあるエピローグですが、読者の多くがこうなれば良いなと思うであろう未来で、出来すぎではあるけど良かったのではないかなと思います。そこにニコ生ネタや死亡フラグネタを使ってくるのは、ここまでされると気持ちがよいですね。

ロケット制作に関わる貴人以外の学生と大人二人に能力がありすぎるとか、翠との関係の描写が物足りないとか、スクールカースト崩壊後のクラスメイトの行動に疑問が残るとか、満足できないところもありますが、それを吹き飛ばしてしまうような、爽やかな青春成長物語の良作です。ラブコメ要素もありますが、そちらはちょっとあっさり目かな。

ただ、オタクの描き方に疑問が残るので、オススメしづらいかなとも思います。