【単巻名作ラノベを巡る旅3】『ペンギン・サマー(六塚光)』を読んで【読書メモ】

さて、ラノベを読むスイッチが入ってしまいました。本日紹介するのは「ペンギン・サマー」というラノベです。単巻名作ラノベとしては、あまり名前の挙がらない作品ですが、私のお気に入りの1冊です。

一度断捨離しちゃいましたけど、この度また購入しちゃいました。

ペンギン・サマー

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著者:六塚光
イラスト:茨乃
文庫:一迅社文庫
出版社:一迅社
発売日:2009/4/20

幼なじみの相馬あかりに付き合わされて、街に古くから伝わる伝説「クビナシ様」を探すため、近所の「白首山」へ登る羽目になった東田隆司。

しかし。

街で暗躍する謎の秘密結社「赤面党」。一部でささやかれる、白首山に眠るという埋蔵金の噂。

そして、ペンギン…。

様々な要素が絡みあい、事態は思わぬ方向へ…。そんな、ひと夏のトンチキな物語。

読んだ感想

読み終えたまず思ったのは、良く出来た話だなということ。面白いがくる前に、そんな驚きと感心がありました。そして、もう一度冒頭から読み始めることに。

街に古くから伝わる伝説「クビナシ様物語」をめぐる話で、著者曰く「青春SF伝奇ホラー?」ということですが、ホラーというわけでは無いです。SFといってしまうと、その界隈の人がこんなのSFじゃないというのでSFとはいいませんが、SF的ガジェットを効果的に使った話です。

そして、ドラマチックに話が盛り上がっていく訳では無くて、あれはこういうことだったのかとか、これとこれがつながっていたのかとか、パズルのピースが埋まっていくのを楽しむような構成になっています。

話は章ごとに、説話集「白首ものがたり」、主人公の日記、行方不明になった人が残す口述記録、会話形式の赤面党の作戦会議、「白首ものがたり」への反論文など、視点や記述方式を変えて進みます。それぞれ時系列がわかりにくくなっていて、状況が把握しにくいことや読み落とすことも多いのですが、最後にはこれらが納得いく形で、収束に向かっていきます。

ただ、読者も知りたいであろう過去の部分は、ヒロインが主人公に語るというシーンはあるのですが、読者には提示されません。敵を倒したり、民衆から賞賛を浴びるというシーンに、読者は登場人物と同化して満足を得る訳ですが、その部分をすっぱりと放棄しています。この部分があれば物語としての面白さはもっと増すはずですが、それは敢えてされていません。それがなせかは、あとがきで語られる「義経北行伝説」についての作者の考察を読むと理解できます。

史実と違う「言い伝え」として伝わっていることは全くのウソなのか、史実といわれていることは本当にあったことなのか。

この物語では過去に実際に起こったことを、その時点での話としては描かれていません。過去に起こったことは、すべて口伝としての伝説、およびそれを記した古文書にある話として伝わるだけです。過去にどういうことがあったのかを明確に語らずに、それらを読者の想像に委ねています。作者は何もかも説明してもらうより、自分で想像する方が楽しいでしょ?といっているわけです。

amazonのレビューや読書メーターなどで感想を読んでいて気になったことをひとつ。

第2章の説話集「白首ものがたり」が長いという意見。「クビナシ様の物語」とその考察が述べられているくだりですが、2回目に読むとこれがすべてギャグに見えてきます。「白首ものがたり」への反論文の章を読んだ時点で、説話集にある「クビナシ様の物語」の真実性は揺らぎますし、1度読み終わって時点で、事実はある程度わかっています。その事実と異なる内容について、真剣にあれやこれやと考察していることに笑える訳です。しかも、市が関わって、これこそが公式の伝説ですといわんばかりに出版していることに、さらに笑えることでしょう。しかも作中ではこの本が、結構流通していることもほのめかされています。「クビナシ様の物語」への考察が長ければ長いほど、滑稽に見える作りになっています。これは2回目に読んだときに感じられる仕掛けであると私はみました。

こんな楽しみ方もできる作品ですが、万人にオススメとはいえません。この作品を楽しむためには、読解力と想像力が必要です。悪くいえば不親切な部分がたくさんあります。

例えば白首山にあったひときわ巨大な石碑に刻まれている紋章、アルファベットのSとIを重ねたようなマーク。これに関しては、同じ章で主人公の父親が「白首アイアンリンクス」に所属しているとさりげなく匂わし、最後の方でその「白首アイアンリンクス」の野球帽をかぶって山に出かけることで、あぁそういうことかとなる訳です。その野球帽のマークについては、いっさい触れられていない訳で。なお、P.199のイラストではSとIが重なっていないのは、ご愛敬でしょう。

もうひとついえば、「クビナシ様の物語」の時代は、鎌倉末期南北朝争乱が起こる少し手前、西暦でいうと1330年代くらい。「白首山の火山騒動」が慶長年間、西暦でいうと1600年前後のこと。作品内では西暦の表記がないのですが、これくらいはあっても良いんじゃないかなぁと思ったりもします。西暦表記が無くても感覚的に300年くらいの開きがあるのは想像できるのですが、明記してもらえれば、もっとわかりやすいのにと。こんな感じなので、ひょっとして楽しめない人も多いかもしれません。

私がこの本を知ったのは2010年頃で、当時の2ちゃんねるで民俗学的要素のあるラノベが読みたいというリクエストをしたときに、紹介してもらったものです。これをきっかけに民俗学に興味を持っていただける人が増えればなとも思います。

というわけで、万人向けでは無い作品ですし、めちゃめちゃオススメする訳でもないのですが、これは良作だと語らずにはいられない作品です。夏の時間つぶしの読書に1冊いかがでしょうか。2~3時間もあれば読めてしまいますし、2回3回と読むごとに味が出る作品ですよ。

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作中の時間を正確に捉えるために、3回目は紙に日付やキャラクターの行動を記しながら読みました。こんな風に書いておくと、何月何日に何があって、その前後で行われていたことが把握できて、さらに楽しめます。こんな読書も面白いと思いませんか?

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