【90年代単巻ラノベを読む】『あうとふぉーかす(吉岡平)』を読んで【読書メモ】

さて、今回からの【単巻ラノベを読む】は、90年代のラノベ作家に注目して読んでいきたいと思っています。

実は90年代のラノベをほとんど読んでいません。有名なシリーズがたくさんあるのですが、それらを全部読むのは大変なので、有名シリーズを書いた90年代を代表する作家の単巻ものを読んでいこうという企画です。

まずはアニメ「無責任艦長タイラー」の原作「宇宙一の無責任男」シリーズで有名な吉岡平の「あうとふぉーかす」です。なお、こちらの作品は青心社から販売されていて、レーベル的にも内容的にもラノベではないのですが、ラノベ作家の原点的な位置づけとして読むことにしました。

吉岡平

1984年の劇場版「コータローまかりとおる!」のノベライズで作家デビューし、しばらくは講談社X文庫にて映画ノベライズを執筆していました。富士見文庫での美少女小説の経て、1989年から始まった富士見ファンタジア文庫「宇宙一の無責任男シリーズ」がヒット。キャラクターなどは大幅に変更されましたが、93年には「無責任艦長タイラー」としてアニメ化。90年代ラノベを代表する作家の一人といってよいでしょう。

90年代初めに富士見ファンタジア文庫、角川スニーカー文庫、ソノラマ文庫など、文庫の壁を超えて多数の作品を発表しています。さまざまな分野の作品を発表し、多作家であると同時に執筆が迅速であることでも有名で、一時は毎月新刊を出すことから「月刊吉岡」と呼ばれていたとのこと。作中の台詞ないし地の文で軍事・写真・特撮・アニメなどに関する蘊蓄が披露されるなど、オタク系の作家といえるかもしれません。

あうとふぉーかす

sty200720-002

著者:吉岡平
イラスト:光藤公一(カバー)、南天佑(本文)
出版社:青心社
発売日:1992/4

「一言も聞いてなかったぞ」編集長は憤慨して言った。それは、全国紙に掲載された有名アイドルの写真集の広告から始まった。カメラ雑誌の編集者である小関雄と、マニアと自ら認めるえすえふ作家、吉田均。そのふたりが、さまざまにカメラと関わってゆく。アイドル写真にいのちを賭けるカメラ小僧たちはなぜ白い胴の望遠レンズを使うのか?その、ファン心理に迫る「アイドル狙いの標準レンズ」。など、など、こだわりの作家〈吉岡平〉の書き下ろし小説。

青心社は、関西在住のSFファンが創設した大阪の出版社。90年代前半は、暗黒神話大系シリーズ(H.P.ラヴクラフトのクトゥルフ神話シリーズを翻訳したもの)や、ライトノベルと呼んでも問題なさそうなファンタジー小説やSF小説を販売していました。

青心社から出版された吉岡平の作品は、こちらのみです。なお、カバーの絵のような女性は登場いたしません。写真モデルの女性がほんのチョイ役で出るのと、女性戦場カメラマンの話が、最後の方に出てくるくらいです。

読んだ感想

これは内容的にもライトノベルではありません。90年代ラノベを代表する作家 吉岡平の、カメラを絡めた作品ということで興味を持ちました。

カメラ雑誌「カメラ毎朝」編集部に勤める、27歳の編集員 小関を主人公とし、実在のカメラが登場する、写真ウンチク連作短編小説といったところです。著者があとがきで「最も書きたかったことは、日本のカメラメーカーに対する圧倒的な不満である」と書いてあるように、物語は置き去りにされている印象。

カメラの専門用語も解説無く登場しますし、この時代のカメラの知識が無いと読んでも全く意味がわからないと思います。絞りの値に誤植(F11やF22を、F1.1とかF2.2など)などもあり、判っている人以外はさらに混乱することになるでしょう。

当時のカメラ業界の状況に問題提起するような内容が多いのですが、今となっては昔の話です。90年代前半くらいのカメラに興味がある人なら、読んでみるのも一興かと思います。詳しい内容がネット上には出てこないので、各話の内容を紹介しておこうと思います。カメラ絡みの小説を探している方の、参考になればと思います。

縦位置パノラマ

人気絶頂の1991年に発売された、宮沢りえのヌード写真集「Santa Fe」の新聞広告から、雑誌での新しい時代のヌード写真特集を考えることに。結局、縦位置パノラマでヌード写真を撮るのですが、当時のパノラマ写真のブームを知らないと?でしょう。上下をカットしてタテヨコ比率を変えて大きくプリントするという、なんちゃってパノラマが流行っていた時期の話です。ミノルタα用のパノラマキットを使用とあるのですが、今となってはこれがどのようなものかもわかりません。

使用するカメラはミノルタα8700iで、オートフォーカスの有用性が語られていたりもします。

アイドル狙いの”標準”レンズ

アイドルを追っかけるカメラ小僧が使用する300ミリF2.8レンズ、通称サンニッパの話。みんなが同じ機材を使って同じような写真を撮る状況を嘆いたり、それを煽るような写真雑誌への批判などが語られます。

究極のサブカメラ

主人公小関はニコンF3のサブカメラに機械式シャッターのFM2が良いと考えている。しかし、プロカメラマンが持つサブカメラは、コンタックスT2。サブカメラとは何かを問う話です。

高級コンパクトカメラの性能を認めつつ、機械式シャッターのカメラが減っていく現状を嘆いています。

プラモの写真

戦車のプラモデルのジオラマ写真をいかに撮るかという話。コンタックスRTSⅢとか、ミノルタαやキャノンEOS1等が語られます。最終的にはキャノンのTSレンズが最強らしい。

ビバ・ライカ!

バルナック・ライカは、不便だけど素晴らしいという話。

夜のニッコール

最終的には単焦点50mm標準レンズが売れていないどころか、カメラ量販店にも在庫が無いと怒る話。戦場に散った女性カメラマン鏑木綾がニコンF2に付けて使っていたのが、ニコン「ノクトニッコール58mm f1.2」。この女性戦場カメラマンにまつわる話がなかなかよいのですが、最終的にはカメラ機材の話に着地するのが悲しいところです。

まとめ

ということで、吉岡平「あうとふぉーかす」の感想でした。

カメラに関しては、ミノルタのαシリーズのAF性能は認めつつも、全体的に保守的な考え方の小説といって良いでしょう。機械式シャッターが良い、バルナック・ライカが良い、標準レンズ最高!といったところです。ただ、それならば最初のパノラマ写真を肯定的にとらえているのは、ちょっと違和感があったりもしますが。

何処を目指した小説かよくわかりませんが、カメラ・写真業界ものは珍しいですし、90年代前半くらいのカメラに興味がある人なら、読んでみるのも一興かと思います。

ちなみに写真をあつかったジュブナイルとしては、小林紀晴の自伝的青春小説「写真学生」がオススメだったりします。