【90年代単巻ラノベを読む】『黒衣の武器商人(井上 雅彦)』を読んで【読書メモ】

さて、今回の【90年代単巻ラノベを読む】は、ホラーアンソロジー『異形コレクション』の監修者として有名な井上雅彦唯一のファンタジア文庫作品『黒衣の武器商人(アイテム・ディーラー)』を読んだ感想です。

黒衣の武器商人

黒衣の武器商人

著者:井上 雅彦
イラスト:米田 仁士
文庫:富士見ファンタジア文庫
出版社:富士見書房
発売日:1992/05

物語は窮地に置かれた美少女と出会った時、始まった。だが、おれはしょせんただの高校生、自分の無力さを噛みしめるばかりだった。

さらに奇妙な事件がおれを待っていた。家の庭に、ナイフで背中を刺された男が現れたのだ。しかも男は、本の中に消えていった。さらに、その男を捜してあの少女が訪ねてきたのだ。

手がかりは男の残した数冊の本。ジャンルも年代もさまざまな本に記された物語に共通していたのは、不思議な武器商人が登場することだった。そして――。まさにその武器商人がおれの目の前に出現したのだ。《物語世界》をかけめぐる冒険におれを誘うために。

期待の新鋭が贈るファンタスティック・ノベル。

月刊ドラゴンマガジン誌に掲載された3編の連作短編を、作中に挟み込む形で書かれた長編作。作中作が掲載されたのは以下の通り。

ラッパモデウスの霧  月刊ドラゴンマガジン1991年1月号
リバイアサン・アイズ  月刊ドラゴンマガジン1991年7月号
朧月の剣  月刊ドラゴンマガジン1991年11月号

読んだ感想

著者の井上雅彦といえば、ホラーアンソロジー『異形コレクション』の監修で有名で、作家よりアンソロジー編集者のイメージがありました。作家としてはソノラマノベルスでデビューしていて、ホラー作品が多いようです。で、この作品は富士見ファンタジア文庫で出版された、氏としてはホラー作品ではない異色作なのかもしれません。他の作品を読んでいないので、イメージだけでですが。

もともとドラゴンマガジン誌に掲載された作品は、《黒衣の武器商人》が登場するのと、オチが不幸で終わるという共通点だけで、中世ファンタジー、スペースオペラ、伝奇時代劇と全く毛色の違うものです。この全く毛色の違う物語を作中作として取り入れ、その物語の中を渡り歩きながら敵と戦うという形で、ひとりの高校生の冒険ものにまとめています。

前半では訪ねてきた男が残した本の内容として短編を読ませる形で展開し、中盤からはその作品世界に入っていくことになります。最後の方では、各作中作の主人公が仲間となって敵と戦うことになり、このあたりはヒーロー全員集合的な、特撮番組的な味わいがあってなかなか楽しいです。そして最後の敵がちょっと意外でした。

《黒衣の武器商人》自身はあまり活躍せず、どちらかというと傍観者。この武器商人の真の目的が面白いです。その正体はのちにアンソロジー編集者として名をなす著者自身であり、これらの小説を読み集めている読者かもしれないなんて思ったり。

ラノベの歴史や名作に名前が挙がってこない作品のですが、これは面白かったです。「世にも奇妙な物語」や「笑うセールスマン」的なちょっとブラックな短編と、ジュブナイルらしい冒険ものを一挙に楽しめました。出版された92年というと、『スレイヤーズ!』や『ロードス島戦記』、『風の大陸』などが人気の時代です。それらに比べるとちょっとひねった感じなので、当時は話題にならなかったのかな?

これは隠れた名作といって良いのではないかと思います。オススメ。

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