【単巻名作ラノベを巡る旅10】『月光(間宮夏生)』を読んで【読書メモ】

さて、今回の名作単巻ラノベを巡る旅は、間宮夏生の「月光」です。第16回電撃小説大賞最終選考作(でも、受賞はしていない)で、青春ミステリー?な作品です。

月光

著者:間宮夏生
イラスト:白味噌
文庫:電撃文庫
出版社:メディアワークス
発売日:2010/9/10

退屈な日常から抜け出したいと思いながら毎日を過ごすシニカル男子・野々村。ある日、彼は美人で成績優秀、ゴシップが絶えない謎多きクラスのアイドル・月森葉子のノートを拾う。そんなアイドルのノートからはみ出した紙切れには彼女のイメージとは程遠い言葉―「殺しのレシピ」という見出しが書かれていた。思わず持ち帰ってしまった彼は翌日、月森に探し物がないかと尋ねるが、彼女からは「いいえ」という返事。そして数日後、彼女の父親が事故死する…。第16回電撃小説大賞最終選考作、ついに登場。

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読んだ感想

ミステリ風ラブストーリー呼べば良いのだろうか。ミステリ的な展開でハラハラさせつつ、最終的にはラブストーリーに着地します。あらすじを読んで、ミステリを期待していたら肩透かしを食らってしまいました。そういえば帯にはルナティック・ラブストーリーとありましたね。

ミステリとしてはラストに問題がありますが、この物語の面白さは、シニカルな主人公 野々宮(あらすじでは野々村と誤植!)と完璧美少女 月森との会話にあるといってよいでしょう。そして、登場する5人のキャラクターがそれぞれ立っていて、いかにもラノベらしい魅力を持っているところでしょうか。

ワインとオレンジジュースに例えて、月森と対比させる同級生 宇佐美を生かし切れていない気はしますが、後半に登場して、ミステリとしての展開を加速させる虎南が面白い。現実の刑事物としてならあり得ないけれども、ラノベならこういうのも許せるかと。

読み終えて感じたのは、なぜこの作品を名作に挙げる人が多いのだろうということ。ミステリ風に読ませて、実は違うというところに面白さを感じたのか、それともキャラクターに魅力を感じたのか。レビューを読んでいると、キャラクターに言及しているものが多いので、後者でしょう。

私としては、最後までひねくれた野々宮にも完璧美少女 月森にも共感できなかったので、この終わりが良かったのかどうかもよく理解出来ずです。最後まで野々宮が突き落とされるのだろうと思いながら読んでいたのですが。

話は変わりますが、この作者は官能小説を書くと良いのではないかと思ってしまいました。月森が所々でみせる胸を押しつけるシーンの描写や、野々宮が欲情に流されそうになるところなど、なかなかゾクゾクさせてくれます。

タイトルの「月光」から少し考察。西洋では「月の光を浴びると気が狂う」とか、満月の夜に変身する狼男とか、月には狂気的な意味を含んでいます。本の帯にルナティック・ラブストーリーとあるのですが、この“lunatic”も狂気じみたという意味があります。

物語の最終章【moonlight】の舞台は、月夜の晩の高台の公園。月森の狂気が見られると期待していたのですが…

物語の終わりには「月明かりの前ではすべての光がかすんで見える。たとえ星々がどれほど夜空に瞬こうとも、街がどれほど眩い光を暗闇に放とうとも、地上のすべてを包み込むように輝く月には決してかなわない(323Pより)」とあり、比喩的に月森の魅力を語っています。ここには狂気的な意味は全く含まれていません。

著者には「月光」に狂気的な意味を持たせるつもりは全くなかったのか。それとも月森の魅力に虜となった野々宮は、気が狂ってしまい、犯罪者である月森を受け入れてしまったと考えるべきなのか。

「―この世の中で月森洋子を疑って良いのは僕だけだからだ」

このセリフに、月の光(=月森の魅力)を浴び続けた野々宮の狂気が見えるのではないかと、そんな風に考えました。

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