【90年代単巻ラノベを読む】『俺の足には鰓(えら)がある(富永浩史)』を読んで【読書メモ】

さて、今回の【90年代単巻ラノベを読む】は、「死天使は冬至に踊る」で第五回ファンタジア長編小説大賞佳作を受賞した富永浩史の「俺の足には鰓(えら)がある」を読んだ感想です。

俺の足には鰓(えら)がある ――悪の改造人間純情編

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著者:富永浩史
イラスト:あさりよしとお
文庫:富士見ファンタジア文庫
出版社:富士見書房
発売日:1996/3

ある日突然、彼女が俺のアパートを訪ねてきた。あらぬ期待に盛り上がる俺に、彼女が衝撃の告白を。「私ね、改造されちゃったのよ」そう、彼女は悪の秘密結社の改造人間になったのだ。呆気にとられる俺。呆気にとられているだけで済めば良かったのだが、彼女は俺をスカウトしようとする。彼女に頼まれると嫌とは言えないのが俺という人間のサガだ。彼女の勤務評定アップのため、秘密結社インバーティブリットの一員となった俺が遭遇する、組織の内紛、謎の無敵ヒーロー。これぞ世界初、トクサツピカレスク・ラブコメディ。ああ、俺と彼女の幸福な日々はいつおとずれるのだろうか。

読んだ感想

これは面白い。特撮ヒーローものを悪の組織側から描いたコメディであり、改造人間ラブコメ。好きな女の子が悪の組織に改造されちゃって、その子の点数を上げるために主人公も改造されてしまう。そして、悪の組織での日々、最後には正義のヒーローとの戦いが待っています。

特撮ヒーローものをネタにした悪の組織の描き方が面白い。大佐派と将軍派の派閥争いはあるし、目的が世界征服だけど具体性がなかったり。このへんは特撮好きにはたまりません。

そして悪の組織の改造人間はみな無脊椎動物。パラドキシデスとかセラターガス(現在ではセラタルゲスと呼ばれている)、マルレラ・スプレンデンス(現在ではマーレラ)という名前にピンときたかたは、この本を読むべき。ちなみに私は、作中に登場する動物をダイオウイカ以外は姿を想像できませんでした。これらはすべて改造を行う博士の趣味との設定。このあたり作者は趣味全開で楽しんで書いていますね。

前半で悪の組織の実体を面白おかしく描き、後半では正義のヒーロー(バッタ男)との戦いを描きます。ヒーロー2号が登場する過程も、特撮ヒーローもののお約束。後半の展開はシリアスで、悪の組織側視点で描かれているので、悲しい展開が続きます。正義のヒーローがとにかく強くて、どんどんやられていく改造人間たちの姿が悲しい。このあたりは前半にしっかりと悪の組織を描いていることが効いています。

正義のヒーローの描き方も一工夫されていて、「世界平和のために悪の組織と戦うのだ!」ではなくて、悪の組織を壊滅させるためだけに存在しているようです。悪の組織が世界征服を目的にしているわりには、あまり悪いことをせず、正義のヒーローがばったばったと改造人間をやっつけていく姿をみると、特撮ヒーローものも視点を変えるとどっちが正しいのかわからないなと思わされます。

作者の特撮ものと無脊椎動物への愛が溢れた作品でした。これも90年代名作単巻ラノベといって良いでしょう。

なお、イラストはマンガ家のあさりよしとおが担当。内容と絵柄があっていて効果的です。韮沢靖版のイラストがあったら面白いのにと思ったりもします。

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