【単巻名作ラノベを巡る旅6】『ある日、爆弾が落ちてきて(古橋秀之)』を読んで【読書メモ】

さて、今回の名作単巻ラノベを巡る旅は、名作と評判の「ある日、爆弾が落ちてきて」です。

ある日、爆弾が落ちてきて

著者:古橋秀之
イラスト:緋賀ゆかり
文庫:電撃文庫
出版社:メディアワークス
発売日:2005/10

「人間じゃなくて“爆弾”?」「はい、そうです。最新型ですよ~」。ある日、空から落ちてきた50ギガトンの“爆弾”は、なぜかむかし好きだった女の子に似ていて、しかも胸にはタイマーがコチコチと音を立てていて―「都心に投下された新型爆弾とのデート」を描く表題作をはじめ、「くしゃみをするたびに記憶が退行する奇病」「毎夜たずねてくる死んだガールフレンド」「図書館に住む小さな神様」「肉体のないクラスメイト」などなど、奇才・古橋秀之が贈る、温かくておかしくてちょっとフシギな七つのボーイ・ミーツ・ガール。『電気hp』に好評掲載された短編に、書き下ろしを加えて文庫化。

現在は新装版も販売されています。さらに1編、描き下ろしが追加されています。

読んだ感想

こちらは雑誌「電撃hp」に連載された短編6編に加えて、1編の書き下ろしを加えた短編集です。ライトノベルでは短編集は珍しいといわれますが、ラノベを代表するタイトルである「キノの旅」や「フルメタル・パニック!」、「涼宮ハルヒ」シリーズにも短編集があるので、実はそれほど珍しくありません。珍しいのは話によって、主人公が違うことです。これはキャラクターを重要視するラノベでは非常に珍しいことです。連作短編や長編ライトノベルしか読んだことがない人は、物足りなさを感じるかもしれませんが、ひとつのアイデアを中心に話を進め、最後にうまく落とすという短編の醍醐味が味わえる作品です。

なお、この本のレビューを見ると、「時間モノ」「時間SF」と書かれています。これはあとがきで著者が「隠しテーマは時間モノ」ということを、図まで使って説明したことを受けて、このように書かれたモノです。読んだ感想としては、それほど時間モノとしての印象を強く受けません。少年と少女の時間の流れにバリエーションを持たせているという構造的なモノで、あくまでも隠しテーマくらいに思っておいた方が良いと思います。先入観を持たないために、作品を読む前にあとがきは読まない方が良いと思います。

本来のテーマとしては、あとがきに”フツーの男の子”と”フシギな女の子”のボーイ・ミーツ・ガールという大枠だけを決めたとあるように、基本的に男の子とちょっとフシギな女の子の物語です。ボーイ・ミーツ・ガールといってしまうと、短編ゆえにドラマチックな展開がなく、物足りなさを感じてしまうかもしれません。

このように「時間モノ」「ボーイ・ミーツ・ガール」など、あまりカテゴリーを意識しないで読む方が良いと思うのですが、紹介するとなると、こういう風にカテゴライズするしかないのかなと。本来の意味でのSFではなくて、いわゆる少しフシギ系のSFで、男の子と女の子の青春モノ。主人公である男の子がわりと真面目だったり、行動的だったりする眉村卓的な正統派ジュブナイルSFというのが、私の印象です。なお、SFは「なぜこうなったんだっ!」で、少しフシギ系は「こんなになっちゃた! 」みたいなとらえ方です。

文章は情景描写などの地の文を減らし、会話文を多めにすることで軽快なテンポを作り出し、非常に読みやすくサクサクと読めます。

内容は青春ありコメディありホラーありと、バラエティに富んでいます。これまたあとがきに「前半は力業で各話の印象を散らそうとした」とあるように、むりやり味付けを変えようとしている印象もします。4話目の「トトカミじゃ」以降は最終話を除き、青春モノ仕立てなのでホラー風味の3話目「恋する死者の夜」だけが、ちょっと浮いた感じにも思えてしまいます。

もうひとつ、文庫化の際に書き下ろされた最終話「むかし、爆弾が落ちてきて」は、文章の印象が違います。連載が終わった後で連続性を意識せずに書かれたからか、敢えてそうしたのかわかりませんが、少年の独白的な文章で、物語の内容も合わせてテイストの違いを感じます。その違いゆえに、最終話が印象に残っている人も多いようですが。

収録作

収録された作品を紹介すると、「ある日、爆弾がおちてきて」「おおきくなあれ」「恋する死者の夜」「トトカミじゃ」「出席番号0番」「三時間目のまどか」「むかし、爆弾がおちてきて」の7編。

「ある日、爆弾がおちてきて」は、ある日空から落ちてきた自称”爆弾”の女の子は、昔好きだった女の子にそっくりで、デートに誘ってくる話。詳しくは後述します。

「おおきくなあれ」は、くしゃみをする度に記憶が対抗していく”阿呆風邪”にかかった、幼なじみの女の子のお世話をする話。オチが良いです。

「恋する死者の夜」は、ホラー風味というか、7編の中では異色作です。死んだガールフレンドと、毎夜遊園地に行く話です。切ない話というよりも、ループから抜け出せない怖い話に思えました。

「トトカミじゃ」は、図書館に住む小さな女の子の姿をした神様の世話係をすることになった、男の子の話。コメディっぽくみせて、ロマンチックな話?

「出席番号0番」は、憑依人格という肉体を持たないクラスメイトとの話。これは色々と難しい話だと感じました。これもコメディぽく書かれていますが、ジェンダーレス等の言葉が飛び交う時代に、どう判断したらよいのかと。そういうジェンダーなどの概念を超えたところで話でもあるのですが…

「三時間目のまどか」は、授業中にふと見た窓に写る女の子とやりとりをする話。オチに好印象が持てるので、読者人気は一番高いようです。

「むかし、爆弾がおちてきて」は、平和記念公園の中に立つ少女の像を巡る話。最後に主人公がとる行動に賛否があるかもしれませんが、男の子側の立場になると非常にロマンチックな話です。

以上、各話の簡単な説明でした。読書メーターのレビューを読むと、「三時間目のまどか」「むかし、爆弾が落ちてきて」の人気が高いようです。

ネタバレありの感想

私が1番気に入ったのは表題作の「ある日、爆弾がおちてきて」、これについてネタバレを含め語ります。

さらっと切ない話のように書かれていますが、これが一番怖い作品じゃないかと。何が怖いかというと、爆弾の少女の絶望感です。

高校時代、少女はこのようなことを語っています。教室の窓から外を眺め、想像するのは町に落ちる爆弾。町や人も吹き飛ばして、誰もいなくなった廃墟の上に立つ大きなキノコ雲が、すごくきれいなんだよと。現在なら不謹慎と叩かれてしまいそうな内容ですが、心臓に持病があり、薬であるニトログリセリンを手放せない少女の、破壊願望とそれをきれいと感じる絶望感。

そして、爆弾となって男の子前に現れ、一緒に爆発しようとするのです。それもデートをして、ドキドキ感を高めたうえでです。

「”自殺”とか”道連れ”ではなく、きれいに終わりたいっていうか」、「本当はみんな思っているよ……『誰かが終わらせてくれないかなあ』って」、「未来なんかどかーんと吹き飛ばして、きらきらした現在だけを永遠にするの」、これらは思春期特有のものかもしれません。自分だけでなく、みんなも消えてなくなりたいと思っているはずと。愛してくれている人なら、一緒に死んでくれるだろうという願望。それがかなわなかったため、小さな破裂音だけを残して消えてしまう。

出会ったときから、時間が進んだ男の子と、あの時のままの少女の物語です。思春期特有の破壊衝動や破滅願望。絶望感を抱きつつ、少女はこの願望があるからこそ、生き続けていられたのか、それとも忌の際で思ったのか。

将来に希望を持てず、鬱々と過ごしていた学生時代を思い出し、少女に共感を覚えたのでした。

まとめ

ということで、「ある日、爆弾が落ちてきて」の感想でした。

2005年の作品なので、現在のラノベを読む世代には、少し古くさく感じるかもしれません。しかし、いつの時代になっても色あせない、正統派ジュブナイルSFとして、オススメの作品です。中高生時代に1度読んで、30歳くらいになってもう1度読むと、また違った味わいになると思います。

私のように50を過ぎて読むと、さらにまた味わいも違ってきます。あの頃のまぶしさを思いだしつつ、「トトカミじゃ」にでてくる先生や「むかし、爆弾がおちてきて」のおじいさんの気持ちにも思いを馳せてしまいます。

文句なしの名作です。