【ラノベの源流】『風の名はアムネジア(菊地 秀行)』を読んで【読書メモ】

さて、今回も菊地秀行、80年代ソノラマ文庫で「吸血鬼ハンター”D”」シリーズや「エイリアン」シリーズが大ヒット、伝奇アクション小説で有名な菊地秀行の『風の名はアムネジア』を読んだ感想です。

ライトノベルの定義はおいておき80年代のソノラマ文庫作品は、後のライトノベルへとつながる作品群だと考えています。ということで、今回は【ラノベの源流】のタイトルにしています。

風の名はアムネジア

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著者:菊地秀行
イラスト:天野喜孝
文庫:ソノラマ文庫
出版社:朝日ソノラマ
発売日:1983/10

ジョニーは言った。”ワタル、君は旅に出るんだ。この世界を見てまわるんだ。何もしなくてもいい。ただ、人間の行いとそのつくりあげた文明の行方を観察するんだ。人間がみな記憶喪失症〈アムネジア〉にかかり、原始人なみの状態なったいま、もう純粋に人間だけしか残っていない。目をそむけず、見たものを心に刻みつけるんだ。そして探すんだ、人間は何を求めているかを。こんな目にあわせたやつらに、これまでの人間の営みを語り、被害者としての立場を主張できるのは君だけなんだ”

ワタルは旅に出た。シカゴからロスへ、そしてニューオーリンズへと。エネルギーの残存する巨大マシンが徘徊し、野獣と化した人間が身を潜める都市の廃墟を抜けて一路東へ。赤茶けた砂漠を貫く白い道、それはすべてを失った人類の”アムネジア・ロード”だった!

読んだ感想

83年に出版されたこの作品、当時の菊地秀行らしくない作品といってよいのかも。人類が記憶を失ってしまって3年後の世界、奇跡的に記憶を失わずに生き延びた少年によって記憶をとり戻した少年ワタルと謎の少女ソフィアが、文明の崩壊したアメリカの大地を車で走るSFロードノベル。表紙には天野喜孝による2足歩行ロボットが描かれているので、これがそれなりに活躍するロボットものかと思っていたら全然違いました。

サンフランシスコで2足歩行ロボット・ガーディアンとの戦い、ロサンゼルスでのスーとリトルジョン、ラスベガスへ向かう途中の未来学博覧会のモデル都市で役を演じ続ける2人、ラスベガスの2重人格者リーダー、ニューメキシコでのインディアンの男、そしてソフィアの正体。ソフィアの旅の目的地であるニューオ-リンズでのジャズフェスティバル。記憶をなくした人類がアメリカ各地でどのように生きているのかが描かれ、そしてきっかけとなった記憶喪失症〈アムネジア〉が誰によってなぜ引き起こされたのかが最後にはわかります。

出会った人の中で印象的だったのが、ロサンゼルスの少女スー。貸衣装店で手に入れた水色のドレスを着た姿を見たワタルは、思わず口笛を吹く。

平凡な少女を夢のように美しく見せる一枚の服と夕暮れの大通り。それは知識の積み重ねが生んだものであり、このささやかであたたかい一瞬もまた、人類の英知の結晶の1つにちがいない。

――『風の名はアムネジア』p.100より

このシーンが映画のようですごく好き。天野氏のイラストのもまた効果的です。

ロードムービーのように舞台が次々と変わり、様々な人との出会いが乾いた感じで描かれています。人類が知識や文明を失ってしまった時にどうなるのか? ひいては文明は何をもたらしたのか?が描かれています。ジュブナイルSFとしては、ちょっと重いテーマかもしれません。

で、ここからが本当の感想。この物語は結局、異星人の観察者による、人類を判断するための試験だったわけです。地球人が宇宙に進出してきても、他の星を侵略などせずうまくやっていけるのかを試してみようと、人類から記憶を奪っちゃったわけです。その上でどういう行動をするのか、その本質を判断しようと。

でもこれって、上から目線というか、地球人の記憶を無くして文明を崩壊させるあなた方は、すでに自分たちの星以外へ干渉しているわけで、地球人を判断する資格があるのか?と思ってしまいました。

結局、異星人がどういう判断を下したかは描かれず、ワタルは旅を続けます。最後の一行が「風に吹かれて。」

献辞のPPMはピーター・ポール&マリーのこと、とあとがきにあるので、この「風に吹かれて」はボブ・ディランの「風に吹かれて」ということか(PPMはこの曲をカバーしています)。

この歌の最後のフレーズが「The answer is blowin’ in the wind」、翻訳すると「答えは風の中に舞っている」とのこと。「風に吹かれている」と訳している人もいますが、舞っているの方がピッタリのような気がします。

「答えは風の中に舞っている」のでしょう。道中のエピソードは面白いのですが、ちょっと最後が気に入らないですね。

本来ならこちらを読んでから、前回の『グッバイ万智子』を読んだ方が良かったなと、ちょっと後悔しました。ロードノベルとして『風の名はアムネジア』と『グッバイ万智子』を、セットで読むとまた違った味わいがあるのかもしれません。切り口は『風の名はアムネジア』がSFで、『グッバイ万智子』はファンタジーですね。