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自転車好きには薦めにくい?土橋 章宏『スマイリング!- 岩熊自転車 関口俊太』を読んで

久々の読書メモです。
今回は映画「超高速!参勤交代」の原作・脚本で知られる、土橋章宏さんのロードレース小説「スマイリング!- 岩熊自転車 関口俊太」の感想です。

母子家庭で、ロードバイクを買ってもらえない(ママチャリの修理代すらない)、中学生の関口俊太。かつてはツール・ド・フランスにも参加したことのある元メカニックで、現在は夢破れ個人で小さな自転車店を営む岩熊。二人が出会い、お互いの理解を深めながら、ツール・ド・函館ジュニア部門優勝を目指す物語です。

普通に読めばジュヴナイル小説・青春小説のような、成長の物語と読めます。貧困やネグレクトの問題を跳ね返すような成長譚。この本を面白いと評価する人は、こういう部分で感動できたのでしょう。

しかし、この本はライトノベルと捉えた方が良いのではないかと思います。自転車に詳しい人なら、ちょっと突飛というか、ありえないだろうと思ってしまうところがあるからです。現実から少し逸脱しているといいましょうか。それが面白いと思えたりもするので、ライトノベル的な印象を受けるのでしょう。

ママチャリのフレームをぶった切って作り直すとか、フィンスタビライザーの部分とか、ちょっとどうなんだろうと思ってしまいます。しかも、フレームに穴を開けて軽量化とか。また、この自転車を作るために店の売り物である自転車を処分してしまうとは…

元のママチャリが父からのプレゼントということで、思い入れあるものとしてこういった形にしたのでしょう。ただ、主人公はそれほどこの自転車にこだわっていないし、なんなら新しいロードバイクが欲しいだろうと。こういったところが、現実離れしていると感じる部分です。

自転車を作り直すのではなく、岩熊が過去に息子のために用意したフレームが、倉庫の奥に眠っていて、それを俊太のために持ち出してくるくらいの展開で、よいのではと思いました。岩熊はメカニックであって、フレームビルダーではありませんからね。

でも、これらの自転車に関する部分が気にならなければ、なかなか楽しめます。

岩熊の疎遠になった息子をダブらせるような俊太への思い、影で応援してくれる担任教師の思い、関係がうまくいかなくなった母の思い、これらが交錯していき、クライマックスであるツール・ド・函館をむかえます。

このクライマックスである第3章が、ちょっと短くて物足りないのですが、レース中の描写にところどころ、ニヤリとしてしまうところもあり、感動するところもありです。

やがて大型モニターの画面では、森の切れ間ごとに、コーナーを切り裂くような赤い光が流れるようになった。

ディスクブレーキのローターが、熱により赤く光っている、この描写はかっこいい。ありえないけど。

また、自転車でのドリフト走行や、コースを外れたときに大木をキックしてコースに戻るというシーンは、しげの秀一の80年代のバイク漫画「バリバリ伝説」を思い出させます。このあたりも荒唐無稽に感じる方もいると思いますが、こういうのは嫌いではないです。漫画的ですが。

レース中に何度もアクシデントに遭いながらも、先頭に追いつくという展開は、レース物の王道ではありますが、胸を熱くさせてくれます。

私のような自転車オタク的な見方さえしなければ、青春小説として楽しめる1冊です。

私が読んだのは文庫版ですが、内容やレビューに関しては、amazonの単行本のページが詳しいです。すごく評価が別れているのは、自転車やロードレース描写の正確さにこだわるかどうかですね。

なお、文庫化に際して、フレームビルダーであるケルビム(今野製作所)の今野真一氏に、監修として協力いただいているということです。

なお、漫画家もされていますので、小説が苦手な方はこちらを。

どうでも良いことですが、文庫版の表紙ではフロントブレーキがキャリパーブレーキ。漫画版1巻では、カンチブレーキ。前はディスクブレーキじゃないのかな。原作ではそこまで触れられていなかったかな。

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